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RT企画7 「永劫楽土」
信長と於濃のおはなしです。

いきなりイチャイチャしてるので、ある意味、閲覧注意です。


 ↓


 

 明かりが揺れている。
 いや、揺らめいているのは影だ。
 障子戸に映り込んだふたつの影。ふたつがひとつにつながった影。
 触れる肌は確かに柔らかく温かく、生身のそれ。そのようなはずはない、と頭の片隅で考えながらも、次の瞬間には忘れる。褥から離れた位置に据えた灯台の明かりに暴かれた白い肌は、しっとりと汗ばんでいる。けれどまとうのは花の香り。この世に存在し得る中のいずれよりも甘く艶めかしい。独占しようと身を乗り出せば、細い腕が首に絡まり、とらわれる。
 誘われるまま求めるまま、口接けを交わす。
 唇の形を、歯の並びを、舌の温度を、すべてを貪り溶かし合う。こぼれる吐息もあえかな声も、互いを煽るだけ。
 足りない、足りない、足りない。
 もっと。
 呆れるほど一途に熱の味を交わし合いながら、大きく開いた膝のその奥でなお昂ぶる。
 最初に出逢った時も、こうして組み敷いた。
 では最後はいつだ。
 果てはどこだ。
 自問し、すぐに自嘲する。
 昼も夜も月も太陽もない此処こそが、世の果て。
 ここには二人だけ。
 信長と、於濃。
 浮世のあらゆるしがらみから隔てれた場所で飽くことなく、欲するがままに抱き合っている。


「私たち、行く先が決まらないそうよ」
 単衣を羽織って正座した於濃は、鼈甲の櫛で髪を梳かしながら、歌うように言う。
「先刻、あなたが寝ていたときよ。障子の外になんとなく誰かの気配がしたから、訊ねてみたの。私たちはいつまでこうなの、と。すると、なんとなく声が聞こえたの。男なのか女なのか、それさえわからない声が言ったの。あなたたちの罪はあまりに業が深い。だからまだ行き先が決まらない、って」
「それで、おまえはなんと答えた」
「いいえ? なにも?」
 於濃は櫛を漆塗りの箱に戻し、膝枕で寝そべった信長の頬をそっと撫でた。
「だって私、行き先なんていらない。ずっとここにいたいわ」
「……ずっとここにいたら、おまえは、ずっと俺の相手をしなくてはならんのだぞ」
「そう。それがいいの」
 ふふふ、と少女のように明るく微笑んで、於濃は信長のこめかみに唇を寄せた。梳いたばかりの黒髪が細い肩からこぼれ落ちて、信長の鼻先をくすぐる。
 帳のように垂れた髪のその薄暗がりの中、笑んだ唇が語る。
「ここには、私とあなたしかいない。もうあなたは何処にも行かない。城を造ったり、戦に出たり、鷹狩りに出かけたり……そんなことは、二度とないの。あなたの帰りを待つことはない。あなたはいつもこうして私の隣りにいる。政治(まつりごと)も、敵味方もなにもなくて、ただ、私と一緒にいる。……こんなに嬉しいこと、他にないわ。信長が、あのあなたが、私だけのものだなんて」
「……おまえ、そんなにベラベラと喋ることができたのか」
「だって嬉しいから。それとも、こんなに喋る私はいや?」
「どうだろうな」
 信長はそう言ってはぐらかし、身を起こすと、於濃に口接けた。触れては離れ、唇のやわらかさだけをただ楽しむ。こんなに初々しく、かつ安らいだ時間(とき)は、かつてあっただろうか。そう思うと胸の奥が奇妙に軋み、信長は於濃を抱きしめた。
 もう、何処にも行かない。何処にも行けない。
 それなのになぜ、これほど胸が痛むのか。
 熱を絡ませ、気をやって、深く眠って目覚めてまた抱き合い、睦言を囁き合っても、まだ不安になる。
 まさかこれが罪悪の念というものなのか。
 外道の身に堕ちてまでも求めた唯一無二の女は、こうして強く抱きしめても、ふとした瞬間にまた消えてしまうのではないか。外道の罰ゆえに。この声をぬくもりを眼差しを、また喪うのではないか。疑念は晴れない。そうならないという確証など、なにもないのだから。
 それなのに、於濃は嬉しそうに笑う。
 いまを盛りと咲き誇る花のように微笑んで、自ら口接け、身を委ねてくる。
「もう、逃がさない」
 信長の肩口に額をあずけながら、濡れた唇で宣する。
「地位も名声も、なにもない。あなたであるというだけの、あなた。私に甘えるだけのあなた。これ以上に望むものなどないわ」
「……絹も綾織りも」
「いらない」
「未来は」
「興味ない」
 於濃は小さく首を振り、整然と答える。
「私が欲しいのは永遠にあなただけ。……あなたは?」
 問うてくる声に、信長は長い口接けで応えた。

 一糸まとわず、濡れながら上に下に重なり、指も肌もねぶって、名を呼び合う。
 同じ問いかけを幾度も繰り返し、不安と快楽を積み重ねて、泥濘の眠りに落ちては、目覚めるとまず最初に相手の姿を確かめる。
 ここはきっと、世の果ての牢獄なのだろう。
 けれど、この場所にまさる楽土は存在し得ない。
 だから戯れに、不幸を想像する。
「もしも、また引き離されて。また人の世に生まれ落ちたら。そうしたら、あなたは私を見つけてくれる?」
「見つけないはずがない」
「それで、またいきなり私はあなたの妻になるのかしら?」
「案外、おまえが男で、俺が女になっているかもしれん」
「あら。じゃあそのときは、私があなたを襲ってあげるわ」
「……それは嫌だな」
「どうして?」
「なんとなくだ」
「おかしなひと」
 屈託なく笑うその頬を、なんとなく引っ張ってみる。存外間抜けになったその顔に噴きだすと、華奢な拳で胸を叩かれた。
 平穏そのものに過ごすときもあれば、泣いて啼いて助けを乞うても無視して身を揺さぶるときもある。
 時間は、自在。
 ままならぬのは、互いを想い求めて過ごした歳月を知る心。
 すべてが神仏からの罰なのだとしても、ただ一心に甘んじる。そして願う。未来なきこの天涯の永遠を。


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本能寺の、そのあとのふたりを空想。
過去も未来もないところでひたすらいちゃついていればいいんじゃなかろうか、と。そんな感じです。
書き始める直前、天野月子さんの「ウタカタ」という歌にハートを射抜かれたのですが、泡沫とは真逆な話という。でも、八方塞りで総てから乖離しながら想いに沈んでく感が……こう……。

ともあれ、お色気担当の面目躍如です。
 

Posted by 藤原眞莉 at 05:30 | - | -

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