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そろそろ時効ということで。

王宮ロマンス革命の第四部序章的なお話を置いていきます。

以下、注意事項です。



※王ロマ本編そのものは第二部までしか文庫になってません
※第三部までしか構想はありませんでした
※なので、自作公式による非公式な小編です
※つまるところ、120%妄想の産物です(2009年の今ぐらいの時期に書きました)


※恋愛成就的な意味で幸せなアレックスをお好きな方にはオススメできません
※正しく幸せなアレックスしか嫌です、という方はこの小編の存在を黙殺願いますorz


 

 王都の冬の訪れは早い。
 夏の終わりは社交シーズンの終わりでもあるゆえ、貴族たちはそれぞれの領主館(カントリー・ハウス)へと帰ってゆき、枯れ葉ともに都の華やぎは去って行く。
 代わりに窓辺に灯るのは、暖炉のやわらかな明かり。
 郊外にひっそりと建つこの小さな屋敷の応接間も、揺らめく炎に暖められている。

 窓辺には、円卓を囲み座るふたつの影。
 ひとつは、この屋敷の主であり、右目に眼帯をつけた青年。
 いまひとつは、先年、二十歳の若さで公爵位を継いだアレックスだ。

 先程淹れられたばかりの紅茶をひと口飲むと、ゆっくりと瞬いて話を始める。
「先日、ご指示を受けたとおり、ランドル商会と地下組織『金色の目覚め』のつながりに釘をさしてまいりました」
「おや、もう? そんなに急ぐ案件でもなかったのに。アレク、君は仕事が早いねえ」
「……ひとつの案件を片付けないうちに次々とご指示を出されるのは、どこのどなたですか」
「いやだって、新国王ウィリアム陛下が誕生したばかりの王都は、どうにもせわしないし。私だって、本当は、もっと色気のある用件で君と密会したいよ。そうは思わないかい?」
「冗談はよしてください、レヴィアン」
「君もそろそろ、親しみをこめて気軽に『レヴィ』と呼んでくれないかなぁ」
 言いながら、彼は碧い目を細めてにんまりと笑う。
 アレックスは、ついため息がこぼれた。
 その生真面目さを褒めるように、レヴィアンが先を促す。
「それで? あのがめつい資産家ランドル氏に、どうやって釘をさしたのかな?」
「地下組織の者との接触は妾宅で多く行われていたので、そこをつきました」
「妾宅? ランドル商会の主は、社交界でも有名な恐妻家だと聞いていたけど」
「その噂をかさに着て、ランドル氏は愛人をひそかに囲っていたのです。もっとも、相手の女性は、ランドル氏の金脈を目当てに近付いた、組織の囲う高級娼婦……という有様でしたが」
「へえ、それはまた、ランドル氏も災難だね。でもまあ、汚く儲けた金は泥流に還るということか。……ということは、君は女性の正体を氏にバラして手切れさせたのかい?」
「いいえ。違います」
「違う?」
 レヴィアンの眼差しが、じり、と引きしぼられる。
 アレックスはあくまでも淡々と答える。
「ランドル氏は、自らの思想や政治目的のために組織とつながっているわけではありません。あくまでも魅力的な女性を自らの手の内に留めるために私財をも注ぎ込み、その大部分が組織に流れ込んでいるのです。そして、氏の性格上、女性が組織の手先だと知れば、さらに金を積み、組織から女性の身柄を買い請けようとするでしょう。そうなれば、組織の懐はますます潤う。女性を氏に任せたふりをして、さらに貢がせればいいだけのことですから」
「うん、それはなかなかのご明察。では、君はどうやってランドル氏に歯止めをかけたのかな。もしかして、奥方に愛人の存在を告げ口するっていう、常套にして陳腐な脅し文句を氏に囁いたのかい」
「いいえ」
 アレックスはゆっくりと首を振った。
「ランドル氏には、夫人の浪費癖の要因が若い男たちを囲っておくためだという事実を、モルド男爵家の音楽会の折りに話しました」
「へえ。噂とかではなくて、事実かい」
「はい」
「氏の反応は?」
「オーケストラの演奏の終わるのも待たずに、男爵家を飛び出していきました。そしておそらく、いまは夫人と泥試合中でしょう。夫人のほうには、氏の愛人の存在をほのめかしておきましたから」
「夫人に密告書でもお送りしたのかい」
「それでは信憑性に欠けます。だから、厨房の女たちからメイドに。メイドから小間使いに。小間使いから夫人に……と伝わるように種をまいておきました」
「んで、お互いの不貞をめぐって泥試合、と。随分とえげつないことを仕掛けたものだねえ、新米公爵殿」
「ですが、ランドル氏が夫人との諍いで妾宅へ足を運べないあいだに、レヴィアン、あなたの手の者が妾宅に踏み込む時間が充分できるはず」
「あれ。そこで私が働かなきゃいけないのかい」
「ランドル氏の足止めが、私に下された案件のはず。だから地下組織のほうを転がすのは、あなたの役割なのでは?  国教会の烏人(レヴィアン)殿下」
 窓の外にはべる夜闇のように弛みなく、静かに、だがはっきりとアレックスは告げる。
 その彼を一瞥し、左の目を伏せて、レヴィアンは喉の奥で小さく笑った。
「ずいぶんとしたたかになったねえ、アレク。そんなふうだから、巷にはこんな噂が流れているんだよ。ウィリアム陛下の革命王家には、冷徹なる『黒の貴公子』が仕えているのだと」
「その喧伝と私を利用して暗躍しているのがあなたではありませんか、レヴィアン」
「利用じゃなくて、協力だろう? 私はなにも、君を脅しているわけでもないし」
「そうですね」
 うなずいて、アレックスはさめかけた紅茶を飲んだ。

 新国王の御世と王家の秩序を護るという大儀名分のもと、第二王子レイモンドは国教会の諜報員として自由を謳歌し、世間的に死んだはずだった自分は爵位を継いで、無為の日々を黒く飾る。
 協力というより、これは共生に近いだろう。

 くだらない。

 アレックスは胸の内で失笑した。
 諜報員として世間の裏と闇を羽ばたく彼はともかく、自分は、まったくくだらない。
 なにかの指示や命令がなくては、アレックスはもう生きていられない。それだけをよすがに己が名を名乗り、ブラウドール公爵家の主としての責任を果たす。
 そうしなければ、夜に眠り、朝に目覚めることさえできない。
 自分自身の心と真向かうことを断じなければ、神に死の恵みを祈りたくなる。

 事実とは残酷なものだ。
 刻まれた真実は、アレックスから平穏を永遠に遠ざけた。

 もう、この国に紫の瞳の姫君が帰ってくることはない。

 かの姫君は、『常春の国』なる地下組織によって幽閉され、傀儡王として即位させられた前王レオンハルトと王家を救うため、紫の瞳の女王として名乗りをあげ、そして、幽閉先から解放した第三王子によって「処刑」された。

 処刑宣告を行なったのは、アレックスだ。
 革命によって第二帝政を興した隣国ランヴィエルスに続き、このクインシードをも食らわんとした『常春の国』の党員や貴族院議員たちのほか、大勢の野次馬の押しかけた議事堂で、死んだはずのアレックス・フィルダ・ブラウドールは、天まで響けとばかりに声を張り上げた。
 かつて自分が思い詰めてかどわかした第二王女は、大陸渡りの暴漢によって捕らわれ、その生を失った。ゆえに、いまここにいる彼女は自分の知る姫君などではなく、まったく別なる者だ、と。
 その言葉に、偽りはない。
 少なくとも、アレックスにとっては。
 聴衆にとっては、女王を称してレオンを廃位させた少女は第二王女の名を騙る偽者だと解釈され、彼女は大逆人とされた。

 だがすべては、彼女―――アレックスの元婚約者でもあるエヴァが望んだままの展開(シナリオ)だ。

 エヴァやレヴィアンの手回しによって幽閉先を脱したウィリアムが、正統なる王位継承者として、エヴァを女王の座から退け、地下組織『常春の国』を駆逐すること。
 エヴァはその名を犠牲にして、クインシードを守った。
 その真実を民の前に去らすことなく、罪人として自らの存在を費やした。
 「処刑」された者、もう死んだ人間として、彼女はクインシードから再び大陸に渡った。
 それでも、牢獄からひそかに脱する日、アレックスはエヴァを抱きしめて告白した。

 あなたの胸に棲まうのが誰であろうと、私はあなたを愛している。
 どうか私とともに生きてください。
 すると、エヴァはかなしいほどたおやかな声でこう答えた。
 私は、愛するひとたちのためにここを去ってゆくの。
 だから、あなたと生きることはできない。
 あなたを愛していても、できない。
 私は、故郷を護るために故郷を失うことを約束された『愛し子』なのだから―――と。

 だから離して、とは言われなかった。
 亡命のために用意された時間はほんの僅かだというのに、エヴァは動こうとしなかった。
 だからアレックスは腕をほどき、呟いた。

 その運命ごと、あなたを愛しています。

 ひそやかな言葉に、アレックスを映す紫の双眸から大粒の涙がこぼれた。
 泣きながら、震えながら、彼女は去っていった。

 いまでもアレックスは瞼を閉じると、あのときの情景をまざまざと思い出せる。
 離別の悲しさと同じぐらいに胸に満ちた、甘い愉悦。
 ああ、姫君は何処に行ってどのように生きようとも、自分のことを決して忘れない。
 永遠に癒えぬ傷跡として、自分は彼女の胸に生き続けるだろう。
 それが、嬉しい。
 嬉しいのだと信じていたい。
 だから、こうして生きている。
 エヴァの存在しない日常を受容しようと、あがいている。
 見事なまでの喜劇だ。

 

「今夜は、やけに冷えるねえ」
 不意に、レヴィアンが口を開く。
 その低い声で、アレックスは物憂い想いから現実な呼び戻される。
 テーブルを挟んで向かい合うのは、隻眼の烏人たる青年。
 そう、これが現実だ。
「もう冬が来る。だから寒いのですよ」
 はるか彼方の楽園から訪れる春の女神は、その愛し子たる者は、泣きながら旅立った。
 だからもう、春は来ない。
 暗く虚ろな季節だけがこの心を包む。
「ま、私は冬も好きだけどね。荒野を包み隠す雪とか、蒸留酒の美味さとか、謝肉祭の騒がしさとか」
「そうですか」
「うん、そうだよ。君は違うのかい、アレックス」
「……そうですね」
 春に恋い焦がれながら、とこしえの冬に生きる。
 死人と呼ばれ、愛する姫君を葬った自分には、それがふさわしい。
 アレックスは、不思議なほど穏やかな心持ちで笑えた。
 ただし、その表情が他者にどのような印象を与えるかまでは、知らない。


 閉じた瞼の向こう、窓の外のその先、空の彼方から、冬が訪れる。
 花の芽吹きを失った永い冬。
 凍える身体を酒で灼いてやり過ごす、その季節が。

 

 
 

Posted by 藤原眞莉 at 02:30 | お仕事関連 | -

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